プライスコレクションを観て来た。
目的は矢張り目玉の伊藤若冲だったわけだけれども、実際観てみると驚いたことが色々とあった。
実物を観るまでは、若冲と云えば鶏、ということで、エネルギー溢れる鶏の印象から、鮮やかな色遣いという印象があった。喩えるなら、鶏の鶏冠のような。
しかし、実際に観てみると、印象が強いのは黒だった。
何と云うか、黒がとても深いのだ。
例えばこの作品、http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060515100355
鮮やかな赤の色遣いが美しいが、それ以上に黒が際立っているように感じた。
赤や茶色や白の細やかな色遣いと線は、写実的ではあるのだが、その構図の妙と背景の松の枝などの大胆なデフォルメとによって、同時にどこか独特の造形的な面白さが感じられる。細やかな描写と大胆なデフォルメ、その両者が同時に迫ってくるのだが、その架け橋になっているのが、黒の深さのように感じた。墨によるグラデーションだからかは解らないが、黒によって、すっと背景よりも向こう側、どこか深くに図像そのものが潜りこんでいくような、そんな感覚を持った。
この黒は、濃いというよりも、深いという色合いだったように思う。濃いというと、どこか厚塗りのような感覚があるが、これは、どこか深く深くに浸透していくような、そんな黒だった。
それが最も印象的だったのは、黒一色で描かれていた、『花鳥人物図屏風』(http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060509100321)と『鶴図屏風』(http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060510095359)だ。
『花鳥人物図屏風』は、墨のグラデーションが美しく、深い黒が斯くも鮮やかであってよいのだろうか、と驚いた。
『鶴図屏風』は、その線の迷いの無い美しさが凄い。時に細く繊細に、時に太く大胆に、それらのつなぎ目が全くないように、自由闊達に線が走っている。その疾走感はどこか涼やかさすら感じた。そして、鶴の羽の端の方の深い黒が、大胆なデフォルメの図像的な味わいを、浮き上がらせること無く、静かさをもたらしているように感じる。
若冲の黒、凄いよ。
他に非常に印象的だったのは、『雪中松に兎・梅に鴉図』(http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060627095340)だ。
このかっこよさは一体なんだろうね。驚くばかり。とんでもねえや。
また、興味深い展示方法だったのが、照明だ。移ろい行く光の下で観賞するというコンセプトのもとで、光源の色と方向が徐々に移ろいゆく。
その中で、金泥や金箔は驚く程に多彩な光を見せる。今まで金屏風の金箔や金泥の部分は、どこか平坦なものだと思っていた。しかし、絵の具との光の反射の仕方の違いによって、とても豊かな情感を作りだすということに驚いた。
以前森美術館で観た、『杉本博司 時間の終わり』展で、平安貴族が観た光を再現する、と云うコンセプトのもとで、自然光に照らされる三十三間堂の写真があった。また、能の舞台も、自然光で観賞するというコンセプトから、日中は窓から日光を採りこんでいたようだが、フラットな光との比較と云う点では、時間がかかりすぎ、解りにくかった。
今回、自然光ではないにしても、多彩な光で作品を照らすことによって、驚く程にその表情を変えて見せたのは非常に新鮮だった。昔の人々は、フラットな蛍光灯では物を見ていなかったのだなと、しみじみと思った。
そこで、はたと思い浮かんだのが、数年前の京都観光での体験である。妙心寺法堂の雲竜図、八方睨みの龍の迫力に私は感動したのだが、それと比較して、建仁寺法堂の双龍図は少々迫力に欠けるように感じた。妙心寺の雲竜図は狩野探幽の作、建仁寺の双龍図は創建800年を記念して現代の日本画家小泉淳作が描いたものだ。勿論、現代に作られた双龍図の方が、色も綺麗だし、デザインも優れているように感じた。しかし、どこか、八方睨みの龍とは違うのだ。それが何かがとても不思議だったのだが、今考えると、それは光の違いだったのかもしれない。
確かな記憶ではないのだが、私はNHKで小泉淳作が龍の絵を描いているのを見たように思う。確か下書きだったが、あれだけ大きな天井画を描くために、紙をつなぎ合わせて体育館で描いていた。勿論その照明は煌々と輝くフラットな水銀灯なわけである。しかし、実際の法堂は勿論、フラットな光源ではない。蝋燭の光や自然光などの光源に照らされて見られる。勿論、そのことを全く計算せずに描いたわけではないだろうし意図して彩色もしていると思う。しかし、案外現代の我々に染み付いた光の感覚は根が深いもので、それが二つの龍の天井画の違いに表れたのかもしれないと、ふと思ったのである。
龍の天井画と云えば相国寺の蟠竜図が「啼き龍」として有名だが、妙心寺の八方睨みの龍の迫力は、凄まじいものが在る。確か公開期間は限られていたと思うが、機会があれば観るのを強くお奨めする。
今回のプライスコレクションは色々と収穫の多い経験だった。
しかし改めて考えると、これだけの作品の価値を見出したのが、日本人じゃないというのは複雑だな。
でも、オフィシャルブログで全展示作品の画像を公開して、斬新な展示方法をしてくれたプライスさんは偉い!
http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060628095933
この子犬が可愛いすぎた。
http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060616102156
この唐獅子も可愛い。
http://f.hatena.ne.jp/jakuchu/20060507135533
この犬もやらしくていいね。
まあ、そんなこんな。