そういえば観たことを書いていない映画があることを思い出した。
3/24 『蟲師』
ストーリーを詰め込みすぎなような気もするけれど、そういえば『スチーム・ボーイ』も随分と複雑なストーリー展開だったなあと云う気がした。複雑というのは、入り乱れているというのではなくて、道自体は一本だけれど、妙に曲がりくねっているような、そう、あの『AKIRA』の配管や血管の有機的な質感のような道が流れているように感じた。ただ、それが問題なのは、必ずしも面白くなるとは限らないということではないだろうか。『スチーム・ボーイ』はシンプルな活劇ものとは言えない出来だったし、爽快感を犠牲にしても得るものがあったのだろうか、という疑問がなくもなかったが、それでも十数年待ったファンは罵る代わりに静かに口を閉ざして味わったのではないだろうか。
しかし、『蟲師』は実写で、原作が他人のマンガだ。マンガはむしろ解り易すぎるほどのストレートな問題提起をしている作品で、一話一話がとても綺麗な構成をしているように思う。しかし、それを数話分まとめて一本の映画にしようとして、それぞれのつなぎを例のごとく曲がりくねった道のようにしようとしているがために、全体としてまとまりを欠くし、叙情的な絵で語ろうとしているのであろう試みも、時折混ざる冗長に過ぎる語りによって損なわれているし、しかも漫画よりも文字的な表現に馴染まない映像では、それでも語り足りないようにも思う。
これは端的に言って、つらい作品だった。
自らの脚本ならば、もっと自在に伸縮できていたのだろうか、と思うと、少し残念だ。
映像を作りこもうとする意思が時折伝わってきたので、10年以上は待てないけれど、次の実写映画も観てみたいと思う。今回の興業は芳しくなかったように思うから、大作は撮れないのかもしれないけれど。
陳腐なストーリー展開しか取れない人よりは、曲がりくねった有機的な物語のつながり方には、可能性を感じるのだけれど。
4/28 『バベル』
少しだけネットで評を観たけれど、否定的な意見が多かった。もっともサンプル数が少ないので、たまたまだったのかもしれない。
そこで気になったのは、この作品を南北問題をテーマに扱ったものとして観るもので、その点で不徹底であるとか、結論をぼかしてしまっているとかいうことだった。
私はそれを観て妙な違和感を感じた。
それは、この作品は南北問題を告発するための作品なのか?という疑問だった。
南北問題を扱うという視点から見るということは、彼らのコミュニケーションが通じないのは、南北問題からで、ケイトブランシェットを貫いた弾丸も、メキシコ国境をまたいで起きた悲劇も、南北問題から演繹されて出てきたもんだとすることではないだろうか。
しかし、もしそうだとすると、南北問題のイントロダクションや、サンプルの摘示のようにこの作品を観るということは、結局南北問題ということを既成のものとして、何かありありとした手探りをもつ実体的なものと捉えることのように感じる。
アレハンドロ・イニャリトゥが語ろうとしたのは、南北問題ということではなくて、その背後にあるコミュニケーション不全ということなのだと思う。その点で、メキシコシティの人々を描いた『アモーレス・ペロス』と何ら変わるところは無いし、舞台を地球規模に置き換えたということではないだろうか。
菊地凛子が流す涙も、ケイト・ブランシェットが流す涙も、アドリアナ・バラザが流す涙も、変わらないというそんなシンプルで当然なこと、それを静かに広く描こうとしたのがこの作品なのだはないだろうかと思う。
だから、この映画をあたかも南北問題を摘発するイデオロギー的な作品と見ることについて、違和感を感じるのだ。勿論、映画も監督の主観を強く反映している以上、イデオロギーとは無縁とはいえないだろう。しかし、ストレートに南北問題というテーマにカテゴライズしてしまうことは、菊地凛子の涙を母親の自殺を母親の自殺を目撃したことのみに由来すると捕らえてしまった刑事と同じ過ちをおかしてしまうのではないだろうか。
南北問題という粗いフィルターのみでは捉えきれない静かな囁きがこの映画にはあるように感じるのだけれど。
とはいえ、矢張り世界規模でのディスコミュニケーションを描こうとすれば、どうしても南北問題に触れざるをえず、その点でこの作品は掘り下げ方が浅く、不徹底だと言えるのかもしれない。
それでも、静かに語りかけるこの作品を、大声じゃないから聞こえないと批難するのは、どこか的外れな気がする。
新文芸坐で『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』という壮絶二本立てを観たのだけれど、その感想はまた後日。
この素晴らしい二本立ては、今週いっぱい上映するらしいので、最近映画を観て心を叩きつけられるほどの衝撃を受けたことがないというひとは、観に行くのも良い選択肢だと思います。
クリント・イーストウッドってすごいなあ。
あ、「すごい」って言ってしまった。貧弱な語彙の私。
